漁港有効利活用マッチング事例

 港の有効利活用事例の中で、地方公共団体、漁業者及び漁業協同組合以外の民間事業者が公共事業で整備した漁港施設を利活用した2事例について、その経緯から手続きを示します。

泊漁港(鳥取県)の事例

概要

 鳥取県には、海面養殖に適した内湾が少ない上に、冬季風浪の影響で前浜では養殖が出来ず養殖業の発展が遅れていました。このため、県では海水井戸水を用いた陸上養殖を支援する養殖推進事業を展開しました。行政財産である漁港公共用地にヒラメ、アワビの養殖施設を建設し、民間企業がこれら魚介類の養殖事業及びそれに関連する販売事業をおこなうことを計画しました。
 行政財産である漁港施設用地及びそこに整備された養殖施設を、民間企業に占有させて、養殖事業をおこなう手続きをおこないました。その手続きについてシミュレートします。
 施設の概要及び有効活用の内容は以下のPDFの通りです。

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経過

 民間企業の漁港有効活用に関する事務全体の流れは、図-1の通りとなっています。

  1. 平成25年6月に鳥取県知事名で公募を開始しました。募集の目的から施設の詳細な図面など必要な事項を整備して応募書類一式を整えて公募をおこないました。特に、陸上養殖事業に付帯しておこなう直売事業も募集対象事業として認められています。同時に民間企業公募の周知を図るために行政各機関、商工会議所及び水産関係機関に公文書を発出しました。
  2. 平成25年7月までに2社の応募がありました。
  3. 平成25年8月に泊漁港未利用地における陸上養殖事業者評価委員会の設置要領が施行されました。この要領では、町の担当課長及び県の関係課長5人が委員として定められ、同時に応募者の評価基準も定められています。
  4. 平成25年8月21日に事業予定者決定の通知がなされました。
図-1 民間企業の漁港有効活用に関する事務の流れ

走漁港(広島県)の事例

概要

 広島県福山市走島の走漁港は、以前は県内1位の漁獲量を誇るとともに、カタクチイワシやノリの加工が盛んでしたが、漁獲量や漁業者の減少が進み、加工場用地が利用されない状況が続いていました。
 一方、同県内の食品製造業の三島食品株式会社では、平成29(2017)年ころから数年間スジアオノリの記録的な不漁により、一時販売を停止するなど原材料の調達が課題となっていました。

 このような中、広島県は同漁港の加工場用地の活用を図るとともに、地元水産業の活性化を図るため、同用地を利用する事業者を募集した結果、三島食品株式会社が陸上養殖施設を設置し、スジアオノリの陸上養殖を令和2(2020)年6月から開始しました。

陸上養殖施設

 本事業により、スジアオノリの計画的な生産が図られ生産量が増加するとともに、雇用が限られる離島地域で新たに18人の雇用が増加しました。また、遊休化していた漁港用地の活用により、漁港の施設利用料収入の増加が図られました。

広島県福山市走漁港
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経過

 走漁港の未利用となっていた漁具保管修理施設用地及び加工場用地について、地元漁協、県水産課、市水産課、様々な機関と調整をおこない、実態やニーズについて、水産加工業者、大学、民間会社等へヒアリングをおこないました。こうしたなか、陸上養殖業者が当地区へ立地する可能性があることが見込まれたため、公募を実施する手続きに至りました。
 また、国庫補助を受けて整備した施設のため、民間企業への占用許可について水産庁と協議をおこない、財産処分についても事前協議をおこないました。
 さらに走漁港の漁港施設用地における陸上養殖業者の選定をおこなうため、平成30年12月20日に県の関係行政機関の部課長6人で構成された陸上養殖業者選定委員会を設置しました。委員会の業務は、陸上養殖業者の候補者の選定、審査方法の決定及び審査項目の決定、陸上養殖業者として適当なものがいない場合の措置及びその他陸上養殖者の選定に必要な事項の決定などです。
 平成30年12月25日に広島県知事により陸上養殖事業者選定の公告をおこないました。公告の内容は次のとおりです。

・募集の目的
・募集対象事業
・事業のための用地の概要
・応募資格
・スケジュール
・広告関係書類の配布
・質問事項の受付及び回答
・現地説明会の実施
・提出する書類一覧
・事業予定者の決定方法
・書類の提出方法
・占用許可の手続き等

 なお、この公告においてスケジュールは次のとおりと表記されています。

① 公募開始:平成30年12月25日
② 現地説明会:平成31年1月18日
③ 質問事項の受付:平成31年1月17日
④ 応募書類の受付期限:平成31年1月31日
⑤ 評価委員会:平成31年2月中旬
⑥ 事業予定者の決定:平成31年2月下旬
⑦ 事業予定者決定通知:平成31年2月下旬

 平成31年2月4日に陸上養殖業者選定委員会が開催されました。応募資格要件を満たす応募者数は1社でした。委員会が定める予定業者の審査基準により採点され、審査基準を超えていることから申請者を陸上養殖業者の予定者として決定しました。
 その後、再度地元説明を実施し、漁業協同組合長、地元自治会長、福山市長より民間事業者の施設利用について同意書をもらいました。(平成31年3月末)
 財産処分について、処分区分は目的外使用(補助目的に従った補助対象財産の使用を継続する場合)で水産庁へ申請をおこない、承認をもらいました。(令和元年5月8日)
 令和2年3月6日広島県知事名で、広島県漁港管理条例に基づき、漁港施設用地の占用が陸上養殖業者に許可されました。

 補助事業により取得し、又は効用の増加した財産の処分等の承認基準 別表1(第3条及び10条関係)備考欄の本来の補助目的の遂行に支障を及ぼさない範囲内で、補助対象財産の遊休期間内に一時使用する場合であり、国庫納付を要しないものに該当します。

室戸岬漁港(高知県)の事例

概要

 高知県の室戸岬漁港において、民間事業者が、飲食、陸上養殖、旅客ターミナル、シーカヤック体験施設、イルカふれあい体験施設及び海釣り場等の海業を運営するために漁港施設を有効利活用した事例を示します。
 室戸岬漁港は古くから遠洋漁業の母港として、発達し、神奈川県三崎漁港、静岡県清水港及び焼津漁港をしのぐ遠洋鰹鮪漁業の漁船が在籍していました。1974年の室戸市(室津港、室戸岬漁港)に所属する漁船は300トンを中心とする遠洋マグロ・カツオ漁船が119隻、70トンの近海カツオ漁船が25隻で、その半数以上が室戸岬漁港を母港としていました。
 近年は遠洋漁業の衰退とともに、大きく漁港の役割が変化し、沿岸漁業を中心にキンメダイ、サバ類の釣漁業がおこなわれています。また、台風時には周辺漁港の避難港として、災害時には救援活動をおこなう防災拠点漁港として重要な役割を担っています。
 この漁港で、海業振興のための漁港施設の有効利活用がおこなわれ、平成18年3月に完成した漁港交流広場(駐車場、トイレ、休憩施設、芝生広場など漁港環境整備施設)を中心として飲食、陸上養殖、旅客ターミナル、シーカヤック体験施設、イルカふれあい体験施設及び海釣り場の開放などの多様な海業が、飲食業、輸送業、水産加工業、NPO団体の民間事業者及び独立行政法人によりおこなわれています(表-1 室戸岬漁港で活動している海業と漁港の有効活用状況)。

表-1 室戸岬漁港で活動している海業と漁港の有効活用状況
図-1 室戸岬漁港外港部

漁港施設の有効利活用の状況を図-2に示します。

図-2 漁港施設の有効利活用の状況

経過

 これら漁港の有効利活用については、観光関連産業との連携のもと、地域住民やNPOと協働して地域の活性化に向けた施設用地等の新たな利用策の検討がおこなわれ、基本構想及び利用計画がまとめられました。そして、海業による漁港施設の利用にあたり、株式会社、公益性を持った輸送会社、NPO、独立行政法人などの海業を営む事業主体の性格、公共用地、単独用地、水域施設、公共施設等の占用する施設の種類、飲食、交通、体験・飲食、海生動物触れあい体験、陸上養殖、水域での体験など海業の内容により、漁港施設利用の許可と規制の手続きが異なります。室戸岬漁港では、漁港の用地及び水域の有効利活用に係る制度(該当ページに移動)に従い、それぞれに適正な手続きを踏んでいます。
 室戸岬漁港では、表-1のとおり、漁港の有効活用において指定管理者制度が活用されています。室戸岬漁港は高知県管理の漁港です。そして、地方公共団体の室戸市に漁港施設の占用者として漁港の有効活用の許可をおこないます。その室戸市が占用目的に沿った必要な施設の整備をおこないます。そして、その施設の管理運営及び必要な業務を、指定管理者制度を活用して民間事業者の公募をおこないます。指定管理者として海業を営む民間事業者の公募います。その手順を図-3指定管理者制度の運用による漁港施設有効利活用のフロー図に示します。

この図-3には次の前提条件があります。

  1. 用地を占用許可するために、占用(利用)目的が必要(占用目的が用地の利用目的に合致している場合に許可)
  2. どういった利用をしたいかで県が占用許可(海業の発案が先行)を出す。
  3. 県が市に管理運営を委託するのではなく、県が市に占用許可した用地に市が施設を整備し、その施設を管理運営する手法(指定管理制度)です。
  4. 施設の整備をおこなう力が民間にない場合に、市町村が施設を整備し、整備した施設の管理運営を民間におこなわせる場合には有効な手法です。
 図-3 指定管理者制度の運用による漁港施設有効利活用(高知県方式)